世界の変わった滑走路5選!砂浜・断崖・氷上…歩いてみたくなる!?

旅の始まりを告げてくれる場所、空港。
空港である以上、そこには必ず航空機が離発着する為の滑走路が設置されています。
ところで、、
滑走路って、形や規模こそ違えど、「どれも似たようなものでしょ」と思っていませんか?
実は世界には、旅の目的地そのものに出来るくらいに、スリリングで、美しく、そして“ありえない”なんて思ってしまうような滑走路を備えた空港も存在しているんです!
例えば、満潮になると滑走路が丸ごと海に沈んでしまう「砂浜の空港」。
息をのむような断崖絶壁に作られた、全長わずか400mの「世界一短い滑走路」。
南極の氷を削って作る「氷上の滑走路」や、一般の道路を横切る「踏切付きの滑走路」など…。
そこでこの記事では、そんな、世界に存在している「ちょっと変わった滑走路(空港)」を5つ厳選してご紹介していきます。
なぜそんな場所に作られたのか?
パイロットはどんな神業で着陸しているの?
などなど、気になる話も併せて紹介していきますので、是非最後までお付き合いください。
気になる空港があれば、是非次の旅の目的地候補としてみるのも良いかも・・!?
砂の上を滑る?ビーチ滑走路
バラ島・スコットランド「Barra Airport」

最初に紹介するのは、スコットランド北西部に浮かぶアウター・ヘブリディーズ諸島の小さな島、バラ島(Barra Island)にある「バラ空港(Barra Airport)」です。
「何があるの?」って?
なんとここの空港、滑走路が砂浜なんです!
信じられますか?
「バラ空港(Barra Airport)」は世界で唯一、満潮時に滑走路が海に沈む空港として知られています。
一日に数回しか現れないこの砂の滑走路は、まるで潮の神秘と飛行機が共演するショーのようで、否応なしに旅の冒険心をくすぐる光景です。
飛行機が砂の上を滑るように着陸する様子は、まるで映画のワンシーンのようです。


滑走路は潮次第!干潮時だけ現れるビーチ空港
バラ空港(Barra Airport / BRR)の最大の特徴は、なんといっても「世界で唯一、定期便がビーチ(砂浜)を滑走路として使用する空港」であるという点。
でも、「砂浜って飛行機が着陸できるほど固いの?」って疑問に思いますよね。
実は、バラ島の「Traigh Mhòr(トライ・ヴォーア/ゲール語で“大きな浜辺”)」と呼ばれるこのビーチは、貝殻の成分を多く含んでいるため、砂が自然と固く締まっているんです。まさに、自然が作り出した奇跡の滑走路というわけです。
しかし、大自然が造り出したこの滑走路、使用するうえでの制限が存在しないわけではありません。
それはズバリ、潮の満ち引き。
干潮時には広大な砂浜が姿を現し、立派な滑走路として機能しますが、満潮になると…なんと、滑走路はすべて大西洋の波の下へ。
まるで魔法のように、空港そのものが海に消えてしまうのです。
一日に数時間しか存在しない幻の空港と書くと、なんともロマンチックな感じですよね。




滑走路設置の工夫:木柱パイロットとタイドスケジュール
まだまだ疑問は尽きません。
「海に沈む滑走路なんて、どうやってパイロットは着陸するの?」
そこには、自然と共存するための素晴らしい知恵が隠されていました。
バラ空港には、風向きに合わせて最適なルートを選べるよう、3本の滑走路が三角形にレイアウトされています。

しかし、砂浜の上にはもちろん、誘導灯のような派手な設備はありません。
そこで、パイロットが頼りにするのは、滑走路の端と端に立てられた、とてもシンプルな木製の柱。
コンクリートやアスファルトが一切使われていない天然の滑走路には、航空灯火の代わりに木製の柱が設置されています。
素朴な目印のように感じますが、これによって砂上の滑走ラインを視認し、飛行機を進入させるのだとか。
パイロットの技術の高さを痛感させられます。


そして、もう一つ、この特殊な空港の運航を支える重要なアイテムとして「タイドスケジュール(潮見表)」があります。
バラ空港では、フライトスケジュールは全て、海の潮の満ち引きに合わせて決められます。
潮汐のタイミングに合わせて予約が組まれ、満潮の時間に重ならないように調整されているということですね。
その為、パイロットも管制官も、最新の気象レーダーとにらめっこするのと同じくらい、真剣に潮見表を読み解いているんだそうです。

滑走路が使えないときは…公共ビーチとして大活躍
飛行機が飛んでいない時間、特に滑走路が海に沈んでいる満潮時、この場所はどうなると思いますか?
驚きの答えは、「誰でも自由に遊べる公共のビーチ」です!
空港の管制塔にある吹き流し(風向きや風速を示す布製の筒)が降ろされると、それが「ビーチ解放」の合図。
満潮時には滑走路も公共の砂浜に大変身。
地元の人々が犬の散歩を楽しんだり、観光客が美しい貝殻を探して(この辺りは「Cockle-picking(ザルガイ拾い)」の名所でもあるんです!)のんびり過ごしたりと、まるでビーチリゾートのような和やかな時間が流れます。
さっきまでプロペラ機が轟音を立てて走っていた場所を自分の足で歩けるなんて、他では中々できない、この空港だけの特別な体験といえます。
飛行機のタイヤ跡を見つけたら、ちょっとテンションが上がってしまいそうですよね。

渡航ポイント:フライト時間と観光プランの調和
この幻のような大自然の空港に是非行ってみたい!と思った人へ、旅のワンポイントアドバイスです。
バラ島へのフライトは、スコットランドの主要都市グラスゴー(Glasgow)から、ローガンエアー(Loganair)という航空会社が運航しています。
小型のプロペラ機で向かう、約1時間の空の旅です。
バラ空港を訪れるうえで最も重要なのは、フライト時間と潮見表の確認。
潮見表(干潮・満潮の時間)をしっかり確認し、飛行機の時間に合わせつつ、潮が引いたときに島散策やカフェ訪問を楽しむのがベスト。
たとえば、干潮後すぐに飛行機が到着するタイミングに合わせて出かけると、ビーチも滑走路も両方たっぷり堪能できます。

公式サイトや航空会社のサイトでフライト時間と潮の満ち引きを事前にチェックして、あなただけの完璧な「バラ島・空港体験プラン」を立ててみてください。
空港に着いた瞬間から、冒険が始まる。そんな旅はいかがですか?
断崖の淵ギリギリ!世界一短い商用滑走路「サバ空港」

スコットランドの穏やかなビーチから一転、今度は手に汗握るスリル満点の空港へご案内します!
舞台は、カリブ海に浮かぶオランダ領の小さな火山島、サバ島。
「手つかずの女王(The Unspoiled Queen)」と呼ばれる美しい島ですが、ここにはパイロットたちが「世界一着陸が難しい」と口を揃える、とんでもない空港が存在します。
その名も「ファンチョ・E・ヨラウスクィン飛行場(Juancho E. Yrausquin Airport / SAB)」。
その所在地がサバ島という島なので、サバ空港とも呼ばれます。
早速この空港に存在する特筆すべき滑走路について見ていきましょう。
シートベルトはしっかりお締めください!
全長400m!世界最短商用滑走路の理由
この空港が“とんでもない”と言われる最大の理由。
それは、商用便が発着する滑走路として世界一短いこと。
その長さ、なんとわずか400メートル!
「400m」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、一般的なジャンボジェット機が着陸するのに必要な滑走路の長さは2,500m以上。
つまり、その6分の1以下という異常な短さなのです。

なぜこんなに短いのか?
その答えは、サバ島の地形にあります。
サバ島は急峻な火山がそのまま島になったような地形で、平地がほとんど存在しません。
島の先人たちが空港を建設しようとしたとき、飛行機がアプローチできる唯一の平地が、この崖っぷちの400mだったのです。
まさに、「ここにしか作れなかった」というわけですね。
滑走路の両端は、切り立った崖とカリブの青い海・・・。
万が一の場合における航空機の逃げ場は一切ありません。
「鳥をポストスタンプに」着陸の緊張感
この絶望的な立地から、パイロットたちはサバ島への着陸をこう表現します。
小さな鳥を切手にくっつけるぐらいのスペース。

切手(Postage Stamp)の上に降りるようなものだ。

このような表現からも、滑走路の極限の短さと、狭い岬にかけるスリルが伝わってきます。
両端が断崖&海に囲まれる「テーブルトップ型」の滑走路への着陸はまさに神業。
着陸のやり直しは、ほぼ不可能です。
少しでも進入角度がズレたり、着地が遅れたりすれば、あっという間に滑走路をオーバーランし、崖下の海へ…。
想像しただけで、足がすくみますよね。
そのため、この空港に着陸できるのは、特別な訓練を受け、その技術を認められたごく一部のベテランパイロットのみ。
乗客の命を預かるパイロットの、息をのむような緊張感と卓越したスキルが、このスリリングなフライトを支えているのです。

崖下に海!ステアリング&ブレーキでギリギリ離陸
スリリングなのは、着陸だけではありません。
実は、離陸は、もっとすごいんです。
サバ空港からの離陸は、まるで「崖の淵(クリフエッジ)から、海に向かってジャンプする(空へジャンプする)」ような感覚と称されるほどなんです。
パイロットは、滑走路のギリギリ端でブレーキをかけたまま、飛行機のエンジン出力を最大まで上げます。
機体がブルブルと震え、今にも飛び出さんばかりになったその瞬間、ブレーキを解放!


飛行機はエンジン全開でロケットのように急加速し、400mの滑走路を使い切るか切らないかのうちに、一気に崖から空中(海)へ飛び出します。
一瞬、機体がフワッと沈むような感覚に襲われた直後、力強く上昇していく…。
この感覚は、どんな絶叫マシンでも味わえないかなと思います。
世界でもここでしか体験できない離陸の瞬間の景色はまさに圧巻で、旅人にとって一生に一度の体験になると言われます。
そんな状態の空港ゆえに、この空港に就航できるのは、STOL(Short Take-Off and Landing / 短距離離着陸)性能に優れた「ツイン・オッター(Twin Otter)」や「BN-2 Islander」のような特殊なプロペラ機だけ。
選ばれし飛行機と、選ばれしパイロットだけが許された、空の舞台なのです。
旅行者の声:スリルがクセになる⁉

聞けばきくほど恐ろしい空港だと感じてしまいそうですが、実はこのスリルもサバ島観光のハイライトの一つになっています。
島のお土産物屋さんで大人気なのが、「I survived the Saba landing(サバの着陸を、私は生き延びた)」と書かれたジョークTシャツ。
このフライトを乗り越えた者だけが手に入れられる、いわば“勇者の証”です。
実際に搭乗した旅行者からは、

人生で一番怖かったけど、最高のフライトだった!

カリブ海の絶景とスリルが同時に味わえるなんて、贅沢すぎる

まるでプライベートジェットに乗ったヒーロー気分!
といった声が続々挙がっているようで、そのあまりのスリルと達成感ゆえに癖になるという声も少なくありません。
恐怖を乗り越えた先にある達成感と、唯一無二の興奮。
あなたもこのスリル、体験してみたくなりませんか?

草むら&崖の上?レソト王国「マテカネ空港(Matekane Air Strip)」の恐怖

カリブ海の計算されたスリルとは一線を画す、ワイルドで原始的な恐怖が味わえる滑走路があります。
次の舞台は、アフリカ南部に位置するレソト王国。
アフリカ唯一の王国であるレソト王国は、その国土全土が標高1,400mを超えていることから、別名「天空の王国」という異名を持ちます。
そして、この国には、パイロットたちが「冗談だろ…」と絶句するほどの、世界で最も恐ろしいと名高い飛行場「マテカネ・エアストリップ(Matekane Air Strip:マテカネ空港)」が存在します。
もはや空港と呼んでいいのかさえためらわれるほどの滑走路、早速見ていきましょう。
標高2,300m!崖上滑走路の立地がすごい
まず驚くべきは、その立地。
マテカネ空港(マテカネ・エアストリップ)は、なんと標高2,300mというかなり高い高度の山の上に設置されています。
これは、富士山の五合目とほぼ同じ高さ。
そんな場所に空港があって滑走路が引かれているというだけでも驚きです。


引用:Facebook/山梨県富士山五合目総合管理センター
マテカネ空港と書きましたが、英語名が「air strip」とあるように、ターミナルビルや管制塔は存在せず、施設としては、ただ滑走路があるのみです。
もっと言うと、滑走路と言っても、サバ島や一般的な空港のように綺麗に舗装されているわけではありません。
地面は土と草がむき出しで、雨が降ればぬかるむ、まさに「草むら(天然)の滑走路」。
国土の大部分が険しい山々で覆われたレソト王国では、陸路での移動が非常に困難です。
そのため、このような高地に簡易的な飛行場を設け、空路で人々や物資を運ぶ必要があったのです。
まさに、「天空の王国」ならではの知恵と苦労の結晶と言えるでしょう。

「世界一恐怖の滑走路」と呼ばれる所以
なぜこの滑走路が「世界一恐ろしい」と呼ばれるのでしょうか。
その理由は、恐怖のコンボにあります。
滑走路の長さだけなら、先に紹介したサバ島と同じ約400m。
400mとなると確かに極めて短い長さですが、この空港の持つ恐怖要素はそれだけではありません。
サバ空港と異なり、ここは標高2,300mの高地です。
標高の高さから、地上よりも空気が薄いため、飛行機のエンジン出力は下がり、翼が生み出す揚力(浮かぶ力)も弱まります。
つまり、平地と同じ感覚では絶対に離陸できないのです。
では、航空機はどうやって離陸しているのでしょうか?
にわかには信じられませんが、答えは「崖から飛び降りる」です。
この滑走路の終点には、深さ約600mの断崖絶壁が待ち構えています。
パイロットは、滑走路内で離陸することを半ば諦め、意を決して崖から機体ごとダイブ!
自由落下しながら速度を稼ぎ、十分なスピードに達したところで機首を上げて再上昇していくという、常識外れのテクニックを使うのです。



乗客からすれば、まさに「死のダイブ」。
眼下に広がる谷底へ吸い込まれていく感覚は、他のどんなスリルとも比較にならないのだとか。
「崖の淵で待ち構える滑走路」と称されることもあり、安全に着陸するためにはパイロットの高度な技術が不可欠。
風の影響も大きく、離着陸時には高度な舵操作と冷静な判断が求められます。
これらに加えて、未舗装の滑走路、山岳地帯特有の予測不能な突風や雨によるぬかるみ、落石のリスクまで加わるのですから、「世界一恐怖」の称号は伊達ではありませんね。
医療支援に不可欠な命のアクセスルート
この恐怖のマテカネ空港(滑走路)、実はただのスリルスポットではありません。
この地における滑走路の存在は非常に重要で、大切な役割があります。
それは、「命を繋ぐアクセスルート」としての役割です。
最初に紹介したように、レソト王国は国土全体が標高にして1400mを超える国。
災害はもちろん、そうでなくても相互アクセスが困難な土地ゆえに、何かがあると陸の孤島となりがちなレソトの山岳地帯に住む人々にとって、この飛行場は外部から医療や食料、生活必需品を受け取るための、文字通り「命綱」として機能しています。

実際に、国際的な医療支援団体やチャリティー団体が、この滑走路を使って僻地の村へ医薬品を届けたり、急患を都市部の病院へ緊急輸送したりしています。
さながら、戦場の最前線に物資を届ける「野戦滑走路」のようですね。
それゆえ、ここを利用する航空機のパイロットたちが感じる恐怖は、ここに降りることで誰かの命を救う、というような様々な使命感に支えられているといえるともいえます。
私たち外部の人間からすれば「怖い!」と感じるスポットかもしれませんが、現地の人々にとって「希望の滑走路」であることは忘れたくありませんね。

※画像はイメージです
引用:国連世界食糧計画(国連WFP)

※画像はイメージです。
引用:国連世界食糧計画(国連WFP)
注意点
なんとも印象深い空港ですが、この滑走路は一般的な観光地ではありません。
それでも、慈善活動などチャリティー活動で訪れる機会があるという場合は、可能な限り乾季(5月~9月頃)を選びましょう。
雨季(10月~4月頃)は、滑走路がぬかるんで使用不可能になるリスクが非常に高まります。
そして、改めて、ここが管理された観光地ではないということを肝に銘じるべきでしょう。
レソトの険しい地形では陸路でアクセスできない地域が多く、医療チームや慈善団体にとって唯一の交通ルート。
山岳部の村々へのワクチン輸送や救急搬送、医療支援などに欠かせない存在で、住民の生命線として重要な役割を果たしているので、医療支援などのミッションが最優先です。
更に、しっかりとしたトレッキングシューズや、高地の寒暖差に対応できる服装など、「冒険」に臨むというくらいの万全の装備(準備)が必要です。
ただのスリル体験ではなく、その土地の厳しい現実と、人々の温かい使命感に触れる。
マテカネ・エアストリップは世界でも稀有な場所です。

氷の世界を走る?南極・北極の氷上滑走路

これまで、砂浜、断崖、草むらの滑走路を巡ってきましたが、次に紹介する空港は、これもまた私達の想像を遥かに超えてくる「氷の世界」です。
地球の果て、南極大陸と北極圏へ参りましょう。
南極や北極というと、テレビでの特集や映画なども数多くあるので、なんとなくイメージ出来る風景はあると思います。
そんな風景にマッチするかどうか分かりませんが、南極大陸と北極圏には、さながらSF映画のように全てが氷でできた滑走路も存在しています。
エンジン音だけが響き渡る、真っ白な静寂の世界。
そこは、自然の厳しさと人間の叡智が交差する、究極のフロンティアです・・。





極地に現れる滑走路:海氷や氷河が舞台
南極や北極で活動する科学者や研究者にとって、空路はまさにライフライン。
その玄関口となるのが、氷の上に作られた「氷上滑走路(Ice Runway)」です。
氷上滑走路とは、その名の通り、凍結した海や湖面、またはブルーアイスと呼ばれる圧密氷の表面を使って設置される滑走路のことです。

引用:国立極地研究所HP「観測隊ブログ」


引用:国立極地研究所HP「観測隊ブログ」
代表的なのが、南極にあるアメリカのマクマード基地。
ここには、目的や季節に応じて複数の氷上滑走路が設営されます。
- 海氷滑走路(Sea Ice Runway):毎年、分厚く凍った海の氷(海氷)の上に作られるメイン滑走路。
- ペガサス飛行場(Pegasus Field):氷河の上に雪を固めて作る、より長期間使用可能な滑走路。
これらの滑走路は、巨大な輸送機が物資や人員を運ぶために不可欠な存在。
見渡す限りの氷原に、飛行機がすーっと降りてくる光景は、まさに圧巻の一言です。


南極だけでなく、北極圏でも同様に、ベースキャンプ「バルネオ(Barneo Ice Camp)」の周辺に氷上滑走路が作られており、科学者や冒険家、観光客を支援しています。

聞くだけだと美しさや儚さを感じる氷上滑走路ですが、やはり舗装された空港に比べると不安定で、極地特有の課題が伴います・・。
毎年消える運命。はかなくも美しい“仮設滑走路”
氷上滑走路の最もドラマチックな特徴は、その多くが「季節限定」であること。
特に、マクマード基地の海氷滑走路は、南極とはいえ短い夏が訪れれば気温が上昇します。
気温が上昇すると、当然、氷の上に出来ている氷上滑走路は徐々にその姿を消していきます。
頑丈に見えた氷の滑走路も、やがては解けてただの海へと還っていくのです。
そして、再び長い冬が訪れ、海が凍りつくのを待って、またゼロから滑走路建設が始まります。
毎年作っては消える、自然のサイクルに寄り添った、あまりにも儚(はかな)く美しい“仮設滑走路”。
人間の力が及ばない、大自然の雄大さを感じさせてくれます。


巨大飛行機が沈まない!氷上滑走路の地道で堅実な作業
美しく儚い氷上滑走路ですが、ふと、こんな疑問を感じました。

何十トンもある飛行機が氷の上に降りて大丈夫なの?
そこには、氷点下の極寒という極限環境の世界で培われてきたシンプルながらも確実な作業がありました。

① 氷の厚さ
滑走路として使用する氷は、最低でも2m以上の厚さが確保されています。
2m!普段生活していては中々見ることはないというくらいの大きさの氷ですよね。
常にレーザーやレーダーで氷の厚さを計測し、安全性をミクロ単位でチェックしているのです。

② “圧雪”を繰り返す
いくら厚い氷であっても、そのままの状態では飛行機の重さに耐えられません。
そこで行われるのが、氷の上に積もっている雪を何度も何度も重機で押し固める「圧雪(あつせつ)」作業。
これを何度も繰り返すことで、氷の結晶同士が固く結びつき、コンクリートに匹敵するほどの強度を持つ頑丈な路面を作り出します。
降雪地域ではお馴染みの技術ですね。

③地道なメンテナンス
滑走路が完成しても気は抜けません。
表面が太陽光で僅かに解けるのを防ぐため、特殊なシートで覆ったり、できてしまったヒビ割れに水を流し込んで再凍結させたりと、地道で繊細なメンテナンスが24時間体制で行われています。

こうした専門家たちの知恵と努力の結晶が、氷上滑走路をして氷を圧縮して航空機の重量に耐えられる硬度を保たせており、C-17のような巨大輸送機の着陸さえも可能にしているのです。
なかには、LC‑130などスキー付き着陸装置が付いている専用機もあり、この種の航空機は雪面や氷面にも着陸が可能ですが、そうではない通常の航空機では、氷上滑走路で通常のタイヤと高速滑走で離発着が可能な硬さが求められます。

観光客も行けるの?極地ツアーの実情
「この目で氷上滑走路を見てみたい!」と思ったあなたへ。
その夢、不可能ではありません!
マクマード基地のような科学基地の滑走路を観光客が気軽に利用することは、残念ながら難しいですが、近年ではアドベンチャー系の旅行会社が企画する特別なツアーに参加すれば、氷上滑走路を体験できる可能性はあります!
費用も時間もそれなりにかかりますが、「地球の果てに降り立つ」という究極のロマンを求める旅人にとって、氷上滑走路はまさに夢の滑走路と言えるでしょう。


一般の車道を横切る滑走路!?ジブラルタル空港

ここまではどちらかといえば人里離れた秘境のような場所にある滑走路(空港)を巡ってきましたが、最後にご紹介するのは、私たちの日常のすぐ隣にあるような、いわば都市型のスリル空港です。
秘境への冒険もいいけれど、「もっと気軽に、でも刺激的な体験がしたい!」という人にピッタリ?な驚きの光景。
そんな日常に溶け込んだスリルを持つ空港をご案内します。

ジブラルタル空港:まさかの、滑走路と一般道路の交差
最後に紹介する空港は、スペイン南端に突き出た場所にあるイギリス領ジブラルタルにあります。
地中海の入り口にそびえる巨大な岩「ザ・ロック(ジブラルタルの岩)」が有名な場所ですね。
ここには「ジブラルタル国際空港」という国際空港がありますが、この空港には世界でも類を見ない特徴が存在します。
なんと、滑走路のど真ん中を、一般の公道が横切っているんです!


まるで鉄道の踏切のように、滑走路と4車線の道路「ウィンストン・チャーチル・アベニュー」が平面交差しているんです。
飛行機が離着陸する時間になると、「カンカンカン…」と警報音が鳴り響き、遮断機が下りてきます。


そして、車やバイク、歩行者たちが、飛行機が通り過ぎるのを“踏切待ち”するのです。
待っている相手が電車ではなく、ジェット機だなんて、なんともシュールな光景ですよね。


2023年には、ついに(待望の?)トンネルが開通!
長年の間、ここ、ジブラルタル空港の名物(そして悩みの種?)であったこの「滑走路と一般道の交差」ですが、実は2023年に大きな変化がありました。
2023年3月31日、ついに滑走路の下をくぐる海底トンネル「キングズウェイ(Kingsway)」が開通したのです!
これにより、従来、滑走路上を通過するしかなかった車は全てこの新しい海底トンネルを利用するようになり、飛行機の離着陸のたびに発生していた交通渋滞は劇的に解消されました。


「え、じゃあこの平面交差の光景はもう見られないの??」
と思った人もいるかもしれませんが、ご安心?ください。
このキングズウェイトンネルは自動車専用なんです!
そう、つまり、歩行者や自転車、キックスクーターなど、車以外での通行の場合は、これまで通り滑走路の平面交差(踏切)を横断する必要があるんです。
航空機が通るたびに発生していた車の大渋滞は見られなくなりましたが、遮断機が下りて飛行機の通過を間近で待つ、あのユニークな体験は今でも健在です。
むしろ、車が減ったことで、より安全に、じっくりとこの不思議な光景を楽しめるようになったと言えるかもしれませんね。

滑走路横断時の安全管理
観光的な観点からいえばテンションのあがる光景ですが、安全面を考えるとやはり危険といえるでしょう。
今でこそ車両は地下を通るようになりましたが、かつて平面交差させていた時の安全管理はどうなっているのか調べてみました。
ジブラルタル空港の安全管理と聞くと少し難しそうですが、その中身は私たちにとって非常に身近な「鉄道の踏切」にある仕組みと同じ基本的な対策でした。
まず、飛行機の離着陸が近づくと、ウィンストン・チャーチル・アベニューと滑走路が交わるエリアで警告音が鳴り響き、信号が赤に変わります。
そして、最初に滑走路の「入口側」の遮断機が下りてきて、新たに人や車が進入するのを防ぎます。
それから少し時間を置いて、今度は「出口側」の遮断機が下りてきます。
こうすることで、万が一滑走路内に人が取り残されていても外へ出る時間は確保しつつ、最終的には四方を完全に囲んで滑走路を密閉空間にするという仕組みですね。
この入口と出口の両方をガードする方式は日本の道路の信号や踏切で採用されている安全性の高い設計で、「絶対に誰も滑走路内にいない」という状況を物理的に作り出せるものです。


安全対策はこれだけではありません。
遮断機が完全に下りた後、最後に待っているのは人の目による最終チェックです。
警察官や空港スタッフが、滑走路上に人や障害物がないことを厳しく確認し、彼らから「安全確保!」の合図が出て初めて、管制塔は飛行機に離着陸の許可を出すのです。


機械と人の目による二重、三重のチェックで、世界でも類を見ないこの「公道を横切る滑走路」の安全は守られています。
まとめ:歩いてみたい不思議な滑走路!あなたはどこへ行く?

ここまで、世界に点在する信じられないような滑走路を巡る空の旅に、お付き合いいただきありがとうございました。
潮の満ち引きで姿を消す、ロマンチックなスコットランド「砂浜の滑走路」。
崖っぷちに作られたスリル満点のカリブ海「世界一短い滑走路」。
一度落下してから上昇するという、度肝を抜くレソト王国「天空の恐怖の滑走路」。
すべてが氷でできた、神秘的な南極・北極の「氷上の滑走路」。
そして、踏切で飛行機を待つジブラルタル空港の「日常に潜む非日常の滑走路」まで。
どの滑走路も、ただのコンクリートの道ではなく、その土地の自然環境や歴史、人々の知恵が詰まった、唯一無二の物語を持っています。
さて、ここまで読んでくださった今、改めて質問です。
次に旅に出るなら、どの滑走路を歩いて(訪れて)みたいですか?
雄大な自然の美しさと、そこにしかない穏やかな時間に癒されたいなら、バラ島や極地の滑走路が、あなたを優しく迎え入れてくれるでしょう。
心臓が飛び出るようなスリルと、一生忘れられない興奮を求める冒険家なら、サバ島やマテカネ飛行場が、あなたの挑戦を待っています。
最高のSNS映え写真と、誰もが「すごい!」と驚くユニークな体験をシェアしたいなら、ジブラルタル空港が、最高の舞台を用意してくれます。
空港は、もはや旅の通過点ではありません。
それ自体が忘れられない思い出となり、旅のハイライトになり得るのです。
次の旅行計画を立てるとき、フライト情報だけでなく、ちょっとだけ「空港」そのものにも目を向けてみませんか?
そこには、きっとあなたの知らない世界への扉が隠されているはずです。
さあ、パスポートを手に、自分だけの特別なテイクオフを体験しにいきましょう!