飛行機を守る。空港消防って何?

空港

おしゃれなショップやカフェにレストラン、温泉やホテルまで、昨今の空港には本当に色々な施設が揃っています。今や観光地としても魅力的といえる空港ですが、やはりその本来の目的は航空機の離発着です。
毎日沢山の航空機が離発着を繰り返す空港は、航空機の離発着と空港施設の安全の為に、非常に緻密な安全策や設備が備えられています。
今回はそんな空港の安全を守る設備の中でも大切な役割を担う一つといえる「空港消防」という組織にスポットを当てていきます。

空港消防について

空港の消防署

空港消防とは、文字通り全国の空港に配置されている消防設備及び消防隊組織のことを指します。
端的にいえば空港や航空機に特化した消防署、という理解で正しいといえます。

空港の消防庁舎

ただ、空港ビルの中や展望デッキなどからでは見えないところに配備されている場合も多いので、意外とその存在を知らないという人も多いかもしれません。
そんな空港消防ですが、実は日本全国全ての空港に必ず設置されています。
これは、国際民間航空条約(通称『シカゴ条約』)という条約において、空港の規模に応じた消防能力を持つ設備と人員を配置させることが明確に定められている為です。

国際民間航空条約の締結 出典:ウイキペディア

自治体(市町村)にある消防とは別

この空港消防という組織、各都道府県市町村に配備されている、いわゆる「街中にある消防署」と同じであると思われることが多いのですが、実は異なる組織です。
街の中にある消防さんは「公設消防」や「自治体消防」などと言われるように、基本的には市区町村が設置する組織で、そこで働く方々は地方公務員です。
一例をあげると、東京であれば「東京消防庁」、京都市であれば「京都市消防局」、その他地方の市町村には、周辺市町村が合同で設置する「〇〇地区広域行政消防~」などがあります。

東京消防庁の消防車
秦野市消防署


これに対し、空港消防の場合は、その空港が自ら備える自前の空港専門消防組織です。
イメージだけでいえば、街の消防団に近い位置づけといえるかもしれません。
空港が自前で備える消防組織と書きましたが、より細かくいえば、その空港を運営する主体が自ら消防組織を設置します。
国や都道府県市町村が管理する空港であれば国土交通省や都道府県市町村が、会社が管理する空港であれば会社が、運営権者が管理する空港であれば運営権者が組織するということです。
国土交通省の場合、「航空保安防災職員」という名称の国家公務員の方が直接消防業務に従事しています。今は一部の空港のみとなっていますが、上述した「公設消防」の同じで、消防の服を着用して実際に消防車を操車して消火活動にもあたります。

国の管理する空港以外だと、空港運営会社自体の職員が直接消防業務を担うわけではなく、空港の消防業務を専門に扱う外部団体などに委託するというのが一般的です。
一般財団法人航空保安協会さんや、警備会社の株式会社セノンさんなどが有名です。

航空の安全を支える。|一般財団法人 航空保安協会
航空保安協会は、航空保安施設の維持管理、空港における警備消防及び有害鳥類防除その他の保安業務並びにこれらに関連する要員の養成訓練等を行うことにより、航空保安の推進に努め、民間航空の発展に寄与することを目的とする団体です。
空港警備業務(空港消防) - 務社会に信頼される警備会社「株式会社セノン」
常駐・機械警備、空港関連、ビルメンテナンス、車両運行管理、医療事務等、幅広い分野のリスクマネジメントをサポートし、安心をお届けする総合安全サービス企業です。

街中の消防さんは基本的に公的な組織として運営されていますが、空港消防に関しては公的機関だけでなく、民間組織によって運営されている場合もあるということです。

空港消防の仕事

空港消防が担う仕事はもちろん、空港を離発着する航空機や空港内の施設を火災や事故から守ることです。

チャイナエアライン120便炎上事故 出典:ウイキペディア
大韓航空2708便エンジン火災事故 出典:ウイキペディア


航空機に起因する事故などの場合には、その活動範囲を空港内に限定しないこともあるなど、空港内及びその周辺における多種多様な防災業務に従事しています。
空港は航空機の離発着を考慮し、どうしても立地が街の中心地から外れた海沿いや人里離れたような場所に設置されることが多いです。それは、周辺に高い建物などがない場所が望ましい為です。
そのような立地であることから、近隣に公設消防の消防署が設置されていない場合も多いのです。

釧路空港の衛星写真

そうでありながらも、空港という施設も航空機も沢山の人が集まる場所と移動手段であり、一たび事故などが起きるとその被害は甚大なものとなりえます。
そのような事情から、空港には必ずその規模に応じた消防能力を備えることが定められているということです。

航空機等の事故に特化して日々訓練を重ねている空港消防は、空港や航空機に関する消防についてのプロフェッショナルです。
航空機の事故に対応して航空機の構造を把握するのは勿論のこと、燃料が流出した場合の消火活動や、エンジンや車輪など部位ごとの火災への対応方法、また、機内の搭乗者を救出する訓練など、まさに航空機に特化した訓練を行います。
他にも、事故を予防する為の施策の構築や、空港内消防設備の点検の他、定期的に空港内の全職員合同の消防訓練を実施するなど、空港内の「防災」活動全般を担います。

写真はイメージ

空港消防で働く人と車

飛行機を守る消防車

空港消防に配備されている消防車両は、自治体が運営している公設消防と同じ「消防車」なのですが、空港消防の場合は「空港化学消防車」などと呼称されるように、都道府県市町村に配備されている消防車とは若干仕様が異なります。
空港の消防は特に航空機の災害に特化して設計されています。
具体的には、ICAO(国際民間航空機関)という国連機関により、空港消防が備える能力として、消防車両自体の性能から配備台数までが細かく規定されているんです。
例えば、空港消防は航空機が発生した場合、航空機の位置がどこであっても出動から3分以内に到着することが求められており、消防車両は最高速度が100キロ出ること(最高速性能)が求められ、100キロに到達するまでにかかる時間(加速性能)は〇秒以内、など車両の性能も細かく規定しています。

他にも公設消防と異なるところとして、空港化学消防車は「水」と「消火薬剤」に「粉末消火薬剤」が搭載されており、車両の大きさによって5000ℓから多いものではなんと12,500ℓもの量を搭載出来る車両まであります。

空港によって配備されている車両は異なるが、いずれも大量の水を搭載出来る構造になっている

大量の水や薬剤を搭載している空港化学消防車の特徴の3つ目は、これら搭載された水や薬剤を車両から直接放射することが出来るという点です。
一般的な都道府県市町村の公設消防の消防車の場合、車からホースを引っ張り、消防隊員がホースで水をかけている光景をイメージすると思いますが、空港化学消防車の場合は、消防車自体にホースの代わりとなる放水口が付いていて(「ターレット」と呼ばれます。)、ここから水や薬液を直接発射出来ます。
更にこの放水は車内から操作が可能な為、車両から出ずに消火作業を行うことが出来るようになっています。

ターレットからの放水

どうしてこのような構造となっているのでしょうか。
航空機は小型のものから大型のものまで様々なサイズのものがありますが、特に定期旅客便となると小型のものでもそれなりのサイズ感です。
人が地面からホースを使って放水するのでは、どうしても航空機全体を冷却させるのが困難かつ時間を要してしまいます。
そこで、空港化学消防車は、車両直結の放水口(ターレット)から強力な水圧で大量の水を一気に航空機に放水させることを有効な戦術としているというわけです。
他にも、航空機の火災の場合は周辺に燃料が流出している場合が想定され、この場合、人間が徒歩で接近することには大きなリスクが伴う為、という理由もあります。
ちなみに、車両からの直接放水が可能となってはいるものの、ホースでの放水が出来ないわけではなく、ハンドラインと呼ばれる、人が持って直接放水する為のホースもしっかり装備されています。

消防車の側面にハンドラインが装備されている

このように、消火栓などの水源がなくとも、車両単体で消火活動を実施することが可能となる、いわば巨大な水槽ともいえる空港化学消防車ですが、その特徴を一言で表すとしたら、とにかく「大きい」に尽きます。
施設見学などを行っている空港もありますので、機会があれば是非間近で見てみてください。
その巨大な迫力を感じられること間違いなしです!

空港消防で働きたい場合

上述した通り、空港消防は都道府県市町村にある「公設消防」とは異なる組織です。
大きく分けると、国家公務員として国土交通省航空局の「航空保安防災職員」に採用されるか、もしくは、民間組織で空港等の消防業務を受託している組織(有名なところでは、「一般財団法人航空保安協会」や「株式会社セノン」など)に採用される、の2つです。
国土交通省の場合、国交省が管理している空港のいずれかに転勤の可能性があり、民間企業の場合もその企業が消防業務を受託している空港であればいずれかへの転勤の可能性はあると思います。
(※採用形態によって異なりますので、詳細は各機関のHPなどをご確認ください。)

航空の安全を支える。|一般財団法人 航空保安協会
航空保安協会は、航空保安施設の維持管理、空港における警備消防及び有害鳥類防除その他の保安業務並びにこれらに関連する要員の養成訓練等を行うことにより、航空保安の推進に努め、民間航空の発展に寄与することを目的とする団体です。
空港警備業務(空港消防) - 務社会に信頼される警備会社「株式会社セノン」
常駐・機械警備、空港関連、ビルメンテナンス、車両運行管理、医療事務等、幅広い分野のリスクマネジメントをサポートし、安心をお届けする総合安全サービス企業です。
採用・キャリア情報 | 国土交通省
国土交通省サイト 採用・キャリア情報をご紹介します。

空港や航空機の災害発生時は空港消防が主力で対応していきますが、勿論、都道府県市町村に所属する公設消防が何もしないわけではなく、両者の連携が非常に重要になります。
例えば、空港毎に内容は異なるものの、空港での事故発生時対応訓練や日常的な職員への防災教育などを公設消防と合同で行っている空港などもあります。
都道府県市町村の公設消防で働く場合も、空港消防の業務に携わることは可能ということですね。
但し、空港消防はその名の通り、空港と航空機を専門にしている組織ですので、こと空港と航空機についてはプロフェッショナルである必要があります。
航空機の構造を理解したり、航空機火災が発生した場合の対処というものは、中々特化して訓練するのが難しい為、空港消防はこういった知識の習得や技能の訓練を日々行うことが大切となります。
航空機の災害が発生した場合は都道府県市町村の公設消防さんに対して状況説明など主導していく必要があります。

体力が資本となる業世界ではありますが、実際に働いている人の話を聞いてみると、空港防災のプロとして日々航空機の安全を守っているという大きな責任感を重荷として感じることはなく、それらは自分達自身にとっての誇りとなり、日々の仕事の原動力となるそうです。
素晴らしい話ですね。
これらの仕事に興味があれば是非調べてみてください。

最後に

空港消防は他にも面白い話がまだまだ多くあり、中々一度では紹介しきれません。
いずれ別の切り口でまた紹介していければと思います。
さて、空港には必ず「消防庁舎」が備えられていますので、次に飛行機に乗った際には、是非窓から空港の設備を眺めてみてください。
赤くて大きな消防車が車庫から顔を覗かせている光景を一度でも見てしまったら、きっと次に飛行機に乗る時にも必ず消防庁舎を探してしまうことになると思います。
それくらいにインパクト抜群なので、是非飛行機に乗った際には探してみてください!!

常に出動体制をとっている為、消防庁舎はシャッターが開いている

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