【旅のお供に】いとはんのポン菓子【本】

「旅のお供に」と題して、旅に持っていくときっとどこかでその旅を更に豊かにしてくれるようなモノ。
そんな「ちょっといいなこれ!」と感じたものを素人の私なりの感性で不定期に紹介していきたいと思います。
基本的には旅のお供として持っていけるようなものを紹介していくことを予定しています。

ということで、記念すべき第1回目。
今回紹介させていただくのは「いとはんのポン菓子」というタイトルの小説です。
「ポン菓子」というお菓子があります。
駄菓子好きな人なら絶対食べたことがあると思います。
ニンジンのような形の袋にみっちり詰められていて(※地域によって異なるかもしれません)、お米が原料の柔らかいスナック菓子です。
ほんのり甘みがあって食べやすく、子供の時はよく食べていた記憶があります。
あのお菓子の背景には実はとても感動的な物語があったことを皆さんはご存じでしょうか。

ニンジンのような包装が印象的な甘くて柔らかいポン菓子


「いとはんのポン菓子」ってどんな本?

日本に実在したある女性をモデルとした主人公の半生を描いた小説です。
舞台は日本で、年代は第二次世界大戦中。
著者は小説家・漫画家である歌川たいじさん。
この小説の主人公である女性は、良くも悪くも多くの他の人と同じ普通の人なんです。
物事の捉え方も向き合い方もずば抜けて秀でているわけでもなければ劣っているわけでもない。
そんな一人の普通の女性が戦争中に体験していく様々な出来事を通して徐々に色々なことに気が付き、時に迷いつつも成長し、そして最後には・・。

抽象的な印象としては、読み終わったあと、しばらくの間ずっと不思議な懐かしさや嬉しさ、そして前を向いて頑張っていこう!という読後感に浸れます。
それに、作中全体を通して表現が写実的で分かりやすい言葉で書かれているので、舞台の街並みの光景がはっきりと目の前にリアルに想像しやすく、感情移入しやすいというか本の中に入りやすい感覚ですね。
Amazonページの内容紹介を引用します。

【内容紹介】
太平洋戦争末期、子どもたちを飢えから救うため、
橘トシ子19歳、不屈の挑戦が始まる

敗色濃厚となった太平洋戦争末期、大阪の旧家のいとはん・橘トシ子は国民学校の教師となる。
栄養不足で教え子たちが次々と命を落とす中、少ない燃料と穀物で大量のポン菓子を製造できる機械の存在を知る。
「この機械-穀物膨張機-さえあれば、子どもたちにポン菓子をお腹いっぱい食べさせられる」。
そう考えたトシ子は、膨張機そのものを量産できる製造工場を立ち上げようと、物資不足の大阪を後にして、〝鉄の町〟北九州へ一人乗り込むが……。
人々を飢えから救い、復員兵の職を作り出した実在する女性の奮闘の半生を描く。

amazon[商品ページ]より引用

旅との関わりについて

旅と本

「本」は基本的に旅とも親和性が高いです。
旅は目的地にもよりますが、基本的には長い時間を移動することが多いからです。
移動の為の手段もかかる時間も多様なので、どんな過ごし方であってもそれがその人の旅のスタイルだと思います。
そんな過ごし方の一つの提案として、「本」は最適なものの一つといえるでしょう。
新しい発見は旅で得られるものの一つです。
普段あまり本を読まないという人にも(というか、そういう人にこそ)、是非、旅を通して「本」との出会いという新しい経験もしていっていただきたいと感じます。

「いとはんのポン菓子」と旅

では、今回紹介する「いとはんのポン菓子」の内容は旅と親和するものなのでしょうか。
ずばり「旅との親和性はある」と思います。
小説全般にいえることですが、本の中に広がるのは新しい世界です。
そして、本を読むことは、その世界を疑似的に「旅」するのと同じような感覚だからです。

いとはんのポン菓子は、第二次世界大戦前後の日本(関西~九州)を舞台としています。
現代からみてもまだ100年も経っていない程度のほんの少しだけ昔の日本です。
そして、冒頭にも書きましたが、この本で描かれる街並みなどの描写は写実的で分かりやすい為、本の中の世界を頭にイメージしやすくて、物語の進むテンポもちょうどよいので、とにかく世界に入り込みやすいです。
また、この本で舞台となるのは関西と九州の一部地域です。
戦争を題材とした映画や本の中でも、個人的に私が触れてきたことがあるのは関東を題材としたものが多いこともあり、特に関西(大阪、京都など)を舞台としたものは新鮮な気持ちで読むことが出来ました。

戦時中の物語なので、もちろん時には過酷な描写も出てきます。
こういった描写は読む人によって感じ方や捉え方が異なるとは思いますが、私にとっては、この本の世界に浸っていくうえで大変重要な要素の一つとなりました。
そんな状況下で主人公が否が応でも体験する不安な思いに対して必死に堪えて前に進んでいく場面は、本を介して私たち読者に対して強い印象を与え、感情移入しやすくなると感じます。

「いとはんのポン菓子」の内容について

読んでいて特に印象に残ったこと

是非読んでもらいたいので、あまり多くは語りません。(表現力が乏しいので語れません。)
強いてあげると、「物語の結末が必ずしもハッピーエンドとまではいえない」という点と、「これが実在の人をモデルとして書かれた」という点が特に強く印象に残るところです。

ハッピーエンドとまではいえない?

完全に私個人の感想です。
ハッピーエンドかバッドエンドかの二元論でいえば、「ハッピーエンド」なのだと思います。
あるいは、「エンド」といえるかどうかが分からない、という方が近い気持ちかもしれません。
この物語は、主人公の女性がずっと追い求めているものを自らの力で得ていく道が描かれている内容です。
ただ、物語の最後の展開は、言ってみればここから始まるというような気もしてしまい、「色々あったけど最後はこれで良かったんだ!」と単純に言い切れない。
そんな複雑な思いを持ちました。
「失うもの」と「得たもの」の比較をすると、「失うもの」が確実に大きく多いのに対し、「得たもの」はまだ未知数なところが多いからかもしれません。
とはいえ、これも偏に小説の出来が素晴らしい為、もっとこの主人公の物語を読みたい(=続編を希望したい)!というただの一読者の欲求不満であるともいえます。
それに、単純なハッピーエンドで終わらないことで、かえって物語のリアリティや余韻が余計に強く感じられるようになった気がします。

実在の人をモデルとして書かれた小説

最初にも紹介した通り、この小説は実在する人物をモデルとして書かれています。
しかも、私の調べる限りでは小説のモデルとなった人物は今もご健在(※R5年8月時点)です。
読者の興味を惹くために徹底して考えられて構築していくフィクションの物語と比較して、実際の人物をモデルとしたノンフィクションの物語はどうしてもドラマチックな展開を起こしにくい部分があると思います。
完全な創作なら読者があっと驚くような内容や思わず手に汗握るものまで、どんな展開でも自在です。
ところが実在の人をモデルとしてその人の半生を描くとなれば、例えば多少なり細部では脚色をするとしても(注:この本がそういった脚色をしているという意味ではありません)、創作のように劇的な展開を組み込むのは困難といえるでしょう。

いとはんのポン菓子の主人公は、一見すると、当時の世の大多数の人が戦時中として経験した日常を過ごしています。
普通の人と異なるある種の「偉業」を成し遂げていくという半生を描いてはいるものの、場面場面を単体で切り取れば、一つ一つには目を覆うような派手さはありません。
それでも、例え派手さがなくとも、一つ一つ確実に芯をもって前に進んでいく主人公の姿には強く心が惹かれ、また、その光景だけ見れば当時としては決して珍しくもないものであったとしても、主人公がそこに至るまでの過程は非常に力強くあったり劇的であったりと様々で、とにかく読んでいて飽きないのです。
思わず、本当にこれが実在していた人の物語なのだろうか、、?と思ってしまうほどでした。
こんな人が日本に実際にいてこんな行動をしていたんだ、という事実には心が温まります。

偉人の伝記なども同じことがいえるのかもしれませんが、この物語は「小説」として作られていることもあり、偉人の伝記以上に読みやすく感情移入しやすい内容であるといえます。

読み終えてみて

この本を読んで、「九州へ旅に行きたい」「九州の街並みを歩きたい」という思いが強くなりました。
理由は単純で、本の舞台が関西と北九州だからというものです。
本に出て来る登場人物が皆その土地の方言を話していることも要因ですね。
私は関西は大阪にしばらく住んでいたので、本の中のセリフを読んでいると、関西や九州地方の方の話し方がリアルに頭に再生されます。
極個人的な感想ですが、地方で日常的に使われる言葉(方言)が温かく感じられてすごく好きなので、本の中の登場人物達の会話に温かさと懐かしさを強く感じ、望郷の念に似たものを感じました。

関西や九州に馴染みのない人であっても、本の中の人達の温かいやり取りや、素晴らしい風景描写を読んでいると、本の舞台となった土地を実際に歩いてみたくなること請け合いです。

北九州市

まとめ

教科書に載るような歴史上の偉人ではない(個人的には偉人と言える人だと思いますが)一人の女性を主人公とした小説。
創作物ではなく実在した人物の半生でありながら、そこには創作物に劣らないくらいのドラマが組み込まれています。
読みやすい文章と適切な速度感でのストーリー展開は、読む人を選ばないと思います。
旅のお供に懐にしまい、ふとした瞬間に読めば、旅の途中の待ち時間も、本の中の素敵な旅に変えることが出来ます。
本当におススメです。

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